今回は、一級建築士製図試験の「試験時間配分」について解説します。
一級建築士設計製図試験では「6時間30分」といった限られた時間の中からエスキス・記述・作図をこなしていく必要があります。
実務では建物を計画する際には計画用地や建築条件、周辺環境といったさまざまな設計条件から時間を掛けられる一方で、製図試験では与えられた条件の中から時間内に条件整理を行って計画する必要があります。
なによりもこの試験では「時間管理がすべて」、といっても過言ではありません。仮に試験時間が無制限である場合、最低限のテクニックさえ身につければ基本的に誰でも合格できます。しかし、それでは受験生同士の差がほとんどつかなくなってしまうため、あえて「6時間30分」といった制限時間を設けることで合否の分け目を作っているのです。
したがって、時間配分管理、いわゆるタイムマネジメント(=Time Management)を厳密に行うことで、必要な内容を正確に書き、時間に余裕が無い場合は減点覚悟で省く、といった仕分けを行います。製図試験も学科試験同様に完璧を目指す必要はありません。
ほとんどの受験生は仕事の合間に勉強をしているため、理想的な図面を表現することはほぼ不可能です。(学科試験で言ったら125/125点を目指すようなもので、90点前半を目指し、100点取れたらラッキー、と製図試験の場合も同様に気楽に考える)
・製図試験の時間配分
①問題文マーカー・エスキス 2時間30分(問題:難)~2時間(問題:易)
②エスキス見直し 15分
③記述 1時間
④作図 2時間30分(問題:難)~3時間(問題:易)
⑤作図見直し 15分
合計 6時間30分
試験を解く順番としては「①エスキス→②エスキス見直し→③記述→④作図→⑤作図見直し」の順で行います。エスキスは前半戦、記述は中盤戦、作図は後半戦というイメージでOKです。
試験の問題によってはエスキスで手こずるケースがあります。手こずった場合は他の受験生も同様に時間がかかってしまうような難しい問題である可能性が高いです。よって、エスキスに時間を掛かった分、作図の時間短縮化を測る必要があります。
エスキスと作図のそれぞれの時間配分については、問題の難易度によって大きく変わるため、時間の配分を柔軟に調整することが必須です。
Point1. (問題:難)エスキス:2時間30分 作図:2時間30分
エスキスが難しく、時間が2時間30分掛かった場合、残り時間から逆算して作図時間は2時間30分ということになります。通常であれば3時間以内に図面を描けばいいですが、2時間30分以内に仕上げる必要があります。ということは、通常よりも30分もの作図時間が少なくなってしまうため、理想的な図面を時間内描くことが難しい、と判断します。試験の30分間というのは非常に長いですよね。このタイムロスをなんとしてでも作図を早く完成することで補わなければいけません。
この場合には、多少雑でもいいのでスピーディーに仕上げること、そして最低限の内容(防火設備や延焼ラインなど法規で必須な内容)のみを描図する方針に切り替えましょう。その場合、ハッチングや植栽、屋外階段・庇の細かい寸法などを描いてる暇はありません。
エスキス・作図、それぞれ両方の見直し時間の確保を最優先に行うことが勝利の秘訣です。
Point2.(問題:易) エスキス:2時間00分 作図:3時間00分
エスキスの難易度が易しく、計画を早く終えられた場合には、作図の完成度が要求されます。なぜなら受験生全員がエスキスで高得点を取れている可能性があるからです。よって、作図時間は細かい内容の書き漏れが無いかつ綺麗な図面を描くために、3時間00分と十分な時間を確保する必要があります。
練習の段階で2時間30分で描き終わる!という人も、通常より緊張している模試や本番では3時間以上掛かってしまい確認時間が足りなくなってしまった、という話が非常によくあります。したがって、直前の作図練習までには、どんな図面でも2時間目標で描き切る、という気持ちでタイムアタック練習に臨みましょう。(実際に私は最速で2:05でしたが。)
Point 3. 記述は「1時間」で切り上げる。
記述は固定1時間で切り上げることが必須です。もし、70分掛かってしまう、という場合には書き訓練をして反射的に記述の内容が思い浮かぶまで練習します。たかが10分縮めても…、と思うかもしれませんが、エスキスや作図の確認に割ける時間が10分でもあれば、非常に有利となります。
記述が苦手、という人はおそらく問題文を見たときに悩んでしまう傾向にあります。「あーでもない、こーでもない」と考えることが2、3問程度であればいいですが、それが5問も6問となってくると記述にかなりの時間が取られてしまい、タイムアップしてしまいます。
例えば、
Q.「構造種別」「架構形式」「スパン割り・部材寸法」について考慮したこと。
といったほぼ毎回出題される定番問題に対する解答を記述する場合には反射的に思い浮かぶ(約0.1秒程度)ように記述できなければなりません。他の受験生との差をつけるためには50回100回と何回も反復して諳んじることで定番問題に関してはフル暗記して本番に臨みましょう。
時間配分としては、10問出題の場合は1問あたり平均6分です。定番問題に関しては3分以内で書き切ることで、初見問題や難問題に長い時間を掛けることが可能になります。
Point 4. エスキス・作図の見直しはそれぞれ15分。
エスキス・作図の見直しは各15分間確保します。見直し時間は必ず確保しましょう。各15分といってもあっという間に時間が過ぎます。
どんなにエスキス・作図がピカピカでも「○防:防火設備」が一個でも抜けたら一発失格と言われています。(製図試験の採点システムはブラックボックスであるため、あくまで推測ですが。)
たった1個の記号の書き忘れぐらいで不合格の試験、、なんて理不尽だ・・・と思いますが、合格者のほぼ全員が「○防」を書き忘れていないことを考慮すると、やはり細かい見直しやチェックが重要となります。
特に、以下の「要求室等の有無」・「法規を満たしているか」・「設備の有無のチェック」が大事になります。(各階or全階)
要求室等の有無
①要求室 ②屋外施設 ③便所・倉庫
④屋根・庇 ⑤屋上 ⑥2方向階段
法規を満たしているか
①高さ制限 ②延焼ライン ③防火設備(○防)
④特定防火設備(○特) ⑤採光計算 ⑥避難距離(歩行・重複)
設備の有無
①空調(マルチ室外機or(HPC・AHU)・空調用PS・DS)
②給排水(ポンプ室・受水槽室・給排水用PS)
③電気(キュービクル・1For屋上・EPS)
④消火(ポンプ室)
以上の項目が特に厳しく採点されるため、見直しの15分間で漏れなくチェックする必要があります。
・さいごに
いかがだったでしょうか。エスキス・記述・作図の時間配分を試験問題の難易度によって柔軟に変更することでタイムオーバーとなる可能性を出来るだけ低くすることできます。
とにもかくにも一部でも完成しなければ未完扱いとなり採点されません。したがって、あらゆる問題に対してその場で明確な状況判断を行い、時間配分を常に意識することが必要不可欠なのです。
よく受験生に陥りがちな発想ですが、「合格図面はほぼ完璧な図面であるはずだから、自分も完璧な図面を目指すべきだ」と考えることです。合格者の全員の解答がほぼノーミスであるということはまずありえません。(僕自身、振り返っただけで10か所以上ミスがありましたが、合格できました。)
合格者は少なくとも作図や記述を試験時間内にカタチとして残すことが出来ている、という点では全員共通しています。本番までエスキスなどのテクニックを磨くことで時間短縮として有効であるとは思いますが、まずは泥臭くなりながらも、なんとか時間内にカタチとして残す、といった全体的な、鳥の目を持って勉強することが合格への第一歩です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。