今回は、記述問題を取り組む上で必要な”テクニック“のお話について解説します。
前回の”記述問題対策の”心得”①(マインド編)”では、記述の勉強を始めるのに必要なスタンスや心構えについて解説しました。今回は、実際に書き始める訓練(アウトプット)を行うにあたって、例題を通して記述が書けるようになるテクニックを習得します。
では、さっそく始めていきます。今回は、最初に具体的な3つのテクニックについてまとめました。
①頭文字暗記(イニシャル法)
②キーワード暗記(ブレインストーミング法)
③全文暗記(全文法)
記述の練習方法として、上の3つをマスターしましょう。
①では、最初の一文字を思い出す訓練を、②では細切れになるキーワードを思い出す訓練を、③では全文を思い出す訓練を、ハードルを少しずつ上げるように段階的に行っていきます。
暗記をするときによく「覚える」という表現を私たちはよく使いますよね。実は、これは暗記をする上では適切な表現ではありません。なぜなら、「覚えた」ことはすぐに忘れてしまうからです。
⓪「暗記」とは、覚えることではなく、「思い出す」こと。
「暗記」をするという行為は「一度覚えたこと」を「思い出す」、この過程がセットで初めて「暗記」なのです。難しく言えば、”想起”ですね。
人間の脳のメカニズム上、記憶した内容は睡眠の間に自分にとって必要な情報と不必要な情報を仕分けして整理されます。記憶から引き出す、「思い出す」という作業を何度も繰り返すことではじめて、脳内で不必要→必要、という整理が睡眠中に行われます。
したがって、自分が製図試験のために「この記述問題の解答を絶対に覚える!」というふうに、どんなに決断をしたとしても、自分の脳が不必要であると判断したら、睡眠によって翌日には忘れ去られてしまうのです。
長期的に記憶に定着させるために、“想起”、内容を思い出す訓練を何度も行うことでようやく、脳内では必要な情報であると判断させます。
よって、①②③は”覚える“という表現ではなく、”思い出す“とあえて表現としました。記述の勉強をするときは、今自分は思い出す訓練をしてるんだと意識してください。模範解答を覚えた直後に天井を見て思い出す、ということを繰り返す作業をすることで少しずつ記憶に定着していきます。
それでは、3つのテクニックについて解説していきます。
①頭文字暗記(イニシャル法)
記述式の模範解答の頭文字だけを思い出す方法です。
例えば、次の問題と模範解答を見てみましょう。
Q.スラブと小梁の架け方について工夫したこと。
【模範解答】
・スラブは、水平剛性の確保や遮音性に配慮し、厚さを200mmとした。
・過大なたわみや局部的な応力集中を避けるため、スラブの短辺を4m以下とした。
・小梁はできるだけ連続梁とすることで、梁中央の応力を抑え、たわみを小さくするように計画した。
・水廻り部分(洗面脱衣室や浴室)について、バリアフリーに配慮し、床仕上げレベルを揃えるようにスラブを200mm下げて計画した。スラブ上で配管をすることによって生じる段差部分には、荷重を安全に伝達できるように小梁を計画した。
頭文字は「ス・過・小・水」となりますね。
ゴロ合わせ的に覚えるなら、「スカッと、お小水」とすれば、一発で覚えられるでしょう(笑)
この作業を、解答例を参照しながら一つずつまとめていきます。
このときは、まだ内容について深く覚える必要はありません。
「スラブと小梁」ときたら「スカッと、お小水」だな、と思い出す程度でかまいません。
最初の一字を思い出すことから訓練を行いましょう。
②キーワード暗記(ブレインストーミング法)
①のイニシャル法が終わったら、「キーワード暗記」です。ブレインストーミング、という言葉は聞いたことがあるでしょうか。英語ではbrain storming(=脳の嵐)と書きます。略称で「ブレスト」とも言います。
例えば、「スラブ」を思い浮かぶとしましょう。そうすると、次に思い浮かぶことは何でしょうか。
僕の場合、
「厚さ」「たわみ」「配管」「200mm」「4m」「ダブル配筋」
「水平剛性」「遮音性」「段差」「バリアフリー」など…
これは人によって、答え方はさまざまです。最初に「厚さ」というキーワードが思い浮かぶ人もいれば、「たわみ」「水平剛性」と答える人もいると思います。
「スラブ」といったら「厚さ」、「厚さ」といったら「200mm」、「200mm」といったら、「段差」、「段差」といったら「バリアフリー」、…
というふうに、子どもの頃にやった連想ゲームのように、リズムに乗せたフレーズを声に出すのもアリだと思います。
建築を勉強したことがない素人が、「”スラブ”といったらなにが思い浮かぶ?」って急に質問されたら答えられないと思います(笑)「え、スラブって?」ぽかーんとなりますよね。
ですが、建築を勉強してきた私たちは解答例さえ見れば、「厚さ」「たわみ」くらいはなんとなく重要なキーワードとして答えられるはずです。
【箇条書きリスト】
・「厚さ」「水平剛性」「遮音性」「200mm」
・「たわみ」「過度な」「局部的な応力集中」
・「水廻り部分」「床仕上げレベル」「スラブ下げ」
模範解答を参考にして思い浮かんだ重要キーワードを箇条書きに並べます。
ここで、反射的に箇条書きができるまで何度もブレストを繰り返します。
もし、何度も繰り返して飽きてきてしまった場合は、前回の記事で口酸っぱく説明した「手とペンで動かして書く」という段階へ移行してください。
おそらくですが、この時点で脳への負荷は非常に大きく、ヘトヘトになってると思いますので、休憩をはさんだり、日を改めてまた繰り返してから、次の最後の段階(③)に進んでください。
③全文暗記(全文法)
さて、②のキーワード暗記を終えたら、いよいよ全文暗記です。
とはいっても、特別な内容ではありません。前回の説明通り、「ひたすら書きまくる」ことを徹底的に行ってください。②のキーワード暗記によって、脳内で散らかったキーワードを頼りに、模範解答を見ながら、文との繋がりを意識して書きましょう。そして、今度は”構文”としてひとまとまりの文章を暗記していきましょう。
ここで特に大事なのは、「設問では何が聞かれているのか?」ということを必ず意識して解答を書くことがポイントです。漢字の練習ではないので、写経(=ただ書き写す)にならないようにしましょう。
設問の文章の行間(=質問者の意)を読み取ることで初めて、本物の記述力があることの証明となります。ただ、暗記したことを答える試験ではありません。
例えば、お客様からされる質問の内容を2つ比べて考えてみましょう。
質問1.スラブと小梁の架け方について工夫したこと。(は何ですか。)
質問2.水廻り部分のスラブと小梁の架け方に考慮したこと。(は何ですか。)
建築主(=お客様)が”一級建築士”であるあなたに質問したとします。これらの質問から何が読み取れるでしょうか。一緒に考えましょう。
質問1つ目では、”建築物全体“のスラブと小梁の架け方について工夫した点について聞いています。”全体“ということは、もれなく説明するべきなので、”原則“と”例外“について説明する必要があります。
例えば、スラブの”厚さ“に関して記述するのであれば、
(解答例)
(原則)スラブは水平剛性の確保及び遮音性に配慮し、厚さを200mmとした。
(例外)屋上庭園において、客土部分の重量に対して十分な耐力が発揮できるようにするために、スラブの厚さを300mmとすることで安全に荷重が伝達できるように配慮した。
原則はスラブ厚さが200mmだけど、例外として、屋上庭園のスラブは土があるから300mm厚にしたよ。という内容を自分の言葉で説明します。
建築主に説明を求められた際に、「なんとなくスラブ厚を300mmにしてみたんです~」なんて稚拙な返答をする一級建築士がいたとしたら商売になりませんよね(苦笑)
一方で、質問2つ目では”水廻り部分“とあるので、水廻り部分だけのスラブと小梁の架け方について質問しているのは当然分かると思います。なぜ、水廻り部分だけに絞って質問しているのでしょうか。
“水廻り部分”のスラブの仕様は”例外“的な内容であることを知っているかを問題として確認したいため。
質問者(出題者)から単純に「床の厚さはどうなっているのか?」と訊かれたら、質問1の解答のように、建築物全体の原則と例外を列挙して答えればいいのですが、
水廻り部分のスラブの構造が通常とは異なる仕様であることを予め知っている質問者(建築主)である場合、原則の内容についてはすでに承知なので説明する必要はないですよね。
聞き手と話し手の両者との間に成立する質問と解答、ある意味では”会話力“を試されているのです。
⓪記憶に定着するには”思い出す”こと。
①頭文字暗記・最初の一字を想起する。
②キーワード暗記・連想させて知識を想起する。
③全文暗記・とにかく書きまくって構文全体を想起する。
質問内容の行間を読んで原則と例外を列挙する。
いかがだったでしょうか。
記述が苦手な受験生でも、イニシャル法、ブレスト法、全文法といった段階的な学習を行っていけば確実に合格できると思います。とにかく書き始めること、これだけは徹底的に行ってください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。