今回は、記述問題対策に対する”心得”について説明します。
特に、製図試験ではこの記述問題に対する配点(図面:記述=6:4と言われる)が非常に高いため、受験者の中でも特に合否に差が付くところでもあります。
一方で、毎年類似の問題が出題されるため、確実に得点がしやすい範囲でもあります。
しかし、多くの製図受験生は、学科試験の短答式(マーク式)では力が発揮できても、
“記述”に対する苦手意識があったり、“記述の勉強方法”がそもそも分からないため、初期の段階から壁にぶつかり、試験当日の最後まで伸び悩むことが少なくありません。
そこで今回は、記述対策を行う上で必要な”心得“について解説します。
僕自身、記述に対する苦手意識やアレルギーがありました。しかし、記述の勉強方法を日々研究した結果、学科試験を合格する位の実力および学習能力があれば、問題なく記述問題を完答できることが分かりました。なので、このサイトにアクセスするくらい勉強熱心で学科試験を突破したあなたは、間違いなく記述能力のポテンシャルがあると断言できます。
では、さっそく”心得”について解説していきます。
受験生の”全員“が”記述の素人“であるということを理解せよ。
まず、初めに受験生全員は記述の素人であることを理解しましょう。
受験生は試験の性質上、大卒に関わらず、いわゆる”理系”に分類されます。この試験では、文章記述能力が高い大卒文系受験生の数はほぼ0に近いことを理解しましょう。
一級建築士試験を受けるほとんどの受験生はこれまで”文字”を書く機会がなかったと思います。文字を書く機会がない、ということはそもそも記述の経験(作成、指導、採点など)が無いので、記述力という点では受験生の実力はほぼ皆無に等しいです。つまり、受験生全員が記述式で同レベルの土俵に立っている、ということをまずは頭の片隅に入れてください。
文字を書くといった訓練をしていない受験生の集団が一斉に記述するわけなので、当然設問の内容に対する答えが適切ではない、あるいは何も答えることが出来ないことが最初はほとんどなのです。安心してください。
僕自身の経験では、学校の授業内で他の受験生の記述解答を見聞・採点する機会が何度かあったのですが、一行や二行程度しか書けていない受験生がほとんどであることに驚きました。ほんとに学科試験合格したの?と思うくらい。自分のことを棚に上げますが(笑)現実は、ほとんどそういった人たちが望む試験なのです。
まず完璧主義を捨てよ。記述問題は積み上げの加点方式である。
学校の模範解答を見ると、至極当然ながら、お手本の綺麗な解答です。
質問の内容に適切に答えているし、内容も複数で余すことなく書いてあります。
記述の採点のシステムとしては、原則0点~4点×10問(合計40点)と大手予備校で予想されています。加点方式→(問1 :0・1・2・3・4 )
つまり、設問一問に対して箇条書きを3コ(+全体の内容やバランスで1点加点)書けば満点が取れるという指針が読み取れます。つまり、どんなに綺麗な解答やクオリティの高い表現を使った内容を書いたとしても、箇条書き1コと同じ内容であれば、文章の長さは関係なく同じ1点、ということになります。
よって、初めのうちは箇条書き3コをいっぺんに丸暗記するのではなく、まず1コだけを暗記する、という小さな目標を掲げましょう。そうすれば、確実に1点を取ることが出来ます。文章全体を完璧に書くというプレッシャーをまずは捨てて、できるだけ1コずつ書き始めていくというスタンスに脳内の思考をアップデートしてください。
とにかく書け!「記述対策」は書いて書いて書きまくれ!!
多くの受験生がいざ設問を解く際に、ある症状に直面します。
「頭に何も思い浮かばない…」
「書いたはいいけど、自分の解答にぜんぜん自信が無い…」
書いたことがないので、当たり前です。
全く気にする必要はないので安心してください。
記述対策をする上では、とにかく実際に手とペンを使って書くことが非常に重要です。
暗唱の勉強と比べて同じテーブルの上で勉強をするのであれば間違いなく記述を1コ1コを地道に書くことです。手とペンを使ってアウトプットすることで、何が書けていて何が書けてないかが意識的に炙り出すことが可能です。
最初は、すべての内容を手で書くことになりますが、3回、5回と書くにつれて、次第に書けないキーワードが減っていきます。
「断水」の対応策について考慮したこと。
(1回目)・給水方式は受水槽方式の一つであるポンプ直送方式を採用することで、断水時に貯留分の上水が各住戸へ供給できるように考慮した。
(2回目)・給水方式は受水槽方式の一つであるポンプ直送方式を採用することで、断水時に貯留分の上水が各住戸へ供給できるように考慮した。
(3回目)・給水方式は受水槽方式の一つであるポンプ直送方式を採用することで、断水時に貯留分の上水が各住戸へ供給できるように考慮した。
赤字で書かれたところが自分の頭の中に入っていないキーワードであることを示しています。書き出してみても思い出すことができないキーワードを暗唱で声に出して何度も繰り返しましょう。
「断水時に貯留分の上水が各住戸へ供給」
「断水時に貯留分の上水が各住戸へ供給」
…
もし、文字をペンと手を使って何度書いても、暗唱しても上達が見られない場合は、インプット訓練不足、ということになります。すなわち、内容に対する理解が欠けているということを認識しましょう。
例えば、上記の例のように”断水“をテーマにしている文章で”ポンプ直送方式“の内容を理解していないのであれば(受水槽・加圧ポンプが必要であること・メリットデメリットなど)、いくら書く作業(アウトプット訓練)を繰り返したとしても、文字面しか頭に残らないため、長期記憶に定着することは難しいのです。
さらに、記述が苦手な受験生でよくありがちなのは、暗唱だけに頼りがちなケース。たしかに学科試験の時のように、目や耳を使って覚えることはインプット段階で反復学習として有効ですが、暗唱はあくまで暗唱。記述は手とペンを使って書き始めることで初めて“記述”ができるようになります。
書いたことがないものをいきなり書け、といわれても難しいでしょう。
例えば、相手の人(=採点官)に対して説明するプレゼンや発表も同じで、プレゼン(=アウトプット)の練習をせずにいきなり資料だけを渡されて上司や重役がいる緊張感のある会議でぶっつけ本番の発表は出来ませんよね。かの有名なスティーブジョブズだって100回以上プレゼンして本番に臨んでいたわけですから、それに比べたら記述の練習をするのに、5回10回手で書くくらいで済めばいい方なのです。
模範解答をコピーしながら箇条書きでキーワードを一句ずつ思い出しながら書く、ということを念頭に置くようにしましょう。”書き始めること“こそが”記述の最短経路“です。
“お客様に説明するイメージ“で記述の内容を考える。
あなたが設計士(一級建築士)で、お客様やクライアント(建築主)に質問されたとしましょう。
「なんで、設計した建物に受水槽があるんですか?」
「どうして、駐車場は入り口から離れた位置にあるのですか?」
「なぜ、こんなに大きい吹き抜け部分があるのですか?」
こういったシンプルな質問に対して、しどろもどろに答える設計士(=一級建築士)がいたらどう思いますか。ほんとにこの人に任せて大丈夫?ってすごく不安になりますよね。
お客様にとって建物は何千万、何億とする一生の買い物です。買ってみたら、実は断熱性能が低くて、夏場は室内灼熱地獄、冬場は極寒冷蔵庫、なんてお話になりません。訴訟もんです。
きちんと”よどみなく説明できる“ということは、設計内容を理解している証拠でもあります。
一級建築士を目指すあなたにとって、自分が設計した建物に関する説明能力(=記述能力)があって然るべき、職務上至極当然のことなのです。実務でそれぐらいの覚悟と自覚を持っていることを試験で測るために、記述式問題を導入しているのでしょう。エスキスや作図さえだけ出来れば合格できるわけではないことが、製図試験問題の構成から読み取れます。
・受験生の”全員“が”記述の素人“である。
・まず完璧主義を捨てよ。記述問題は積み上げの加点方式である。
・とにかく書け!「記述対策」は書いて書いて書きまくれ!!
・”お客様に説明するイメージ“で記述の内容を考える。
いかがだったでしょうか。
記述式の対策はまず、目の前の模範解答を手とペンを使って書き始めることから始めてみてください。記述は一朝一夕で書けるようになることは難しいので、日々のアウトプット訓練の積み重ねによって初めて書けるようになります。ゆえに、受験生同士の差が付く内容なのです。
次回は、記述問題対策の”心得”②(技術編)について解説します。
ご清読ありがとうございました。