今回は延焼ラインについて詳しく解説します。試験対策としては足切り項目の代表格とされていることから、しっかりと内容を理解することが非常に大切です。初めて学習される方はもちろんのこと、中級者向けにも向けた解説となっているので最後までご覧ください。
・延焼ラインとは
・延焼ラインの目的
・設計製図試験で必要な知識(法2条1項九の二号イ・ロ)
・延焼ラインの例外①(隣地が公園や水面等)
・延焼ラインの例外②(道路の反対側が公園)
・まとめ
では、延焼ラインについて勉強していきましょう。
・延焼ラインとは
「延焼ライン」とは、法2条1項六号にある”延焼のおそれのある部分“の定義の中に含まれる内容の一つです。製図試験の作図で記入が必須である一本線のことを示します。
延焼のおそれのある部分とは、隣地境界線・道路中心線(※道路境界線ではない)から1階にあっては3m以内、2階以上にあっては5m以内の部分の範囲を対象としています。
実際の平面図では、「延焼のおそれのある部分」の範囲を示す場合、簡便的に一本の線(点線または一点鎖線)で延焼ラインとして表します。
“延焼ライン”と”その外側”が”延焼のおそれのある部分“ということになります。
本来であればハッチングする領域なんですが、設計のメインである建物や外構部が見えづらくなるため、“延焼ライン”として1本の線で表すようにして便宜的な表現をしています。
立面図では、延焼のおそれのある部分は上記のように赤の部分となります。1階は3m以内の範囲、2階以上は5m以内の範囲です。2階以上、ということは5階建ての場合3階・4階・5階も該当します。ちなみに地階に延焼ラインは不要です。
1階は3mまで、2階以上は5mまでである理由は、火や煙は上階にいくほど燃え広がる性質があるからです。最下階である1階は3m、上階である2階以上は5mまで延焼する範囲であると考えます。
・延焼ラインの目的
隣地あるいは道路の反対側にある建築物に対する延焼を防ぐことにあります。
建物への延焼を防ぐことで、火災時に隣の建物内にいる人が避難あるいは救助されるまでの時間を稼ぐことや、建物自体への火災の被害をできるだけ少なくするなどといった目的があります。
延焼ラインとその外側の範囲は“延焼のおそれのある部分”であるため、原則外壁の開口部には必要な防火設備を設置することが建築基準法上、義務付けられてます。製図試験では、「〇防(まるぼうと呼ぶ)」と平面図に書くことが求められます。
「○防(まるぼう)」
“外壁の開口部“は出入口とか窓のことです。FIX窓みたいに開閉出来ない窓も、火が燃え広がることで「パリンッ!」と割れるので、防火設備にする必要があります。あとは駐車場のピロティ内の出入口も防火設備(防火シャッター等)を設置します。
・設計製図試験で必要な知識(法2条1項九の二号イ・ロ)
設計製図試験では、構造種別はRC造(耐火建築物)で計画することが大前提です。よって、法2条1項九の二号【耐火建築物】のイ・ロを同時に満たす必要があります。イに関しては、RC造であるため主要構造部が耐火構造であることを満たします。一方、ロに関しては、今回のメインである延焼のおそれのある部分について深く関わってきます。
法2条1項九の二号ロ
・その外壁の開口部で延焼のおそれのある部分に、防火戸その他の政令で定める防火設備(その構造が遮炎性能(…)に関して政令で定める技術的基準に適合するもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は…認定を受けたものに限る。)有すること。
延焼のおそれのある部分(=延焼ライン及びその外側の範囲)で、外壁の開口部であれば、遮炎性能を有する防火戸及び防火設備を設置する必要があります。遮炎性能を有する防火戸及び防火設備は、いわゆる両面20分間防火設備と呼ばれます。
両面20分間防火設備は遮炎性能を有するモノです。遮炎性能とは、建築物の屋内または周囲で発生する通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後20分間に加熱した以外の面に火炎を出さない性能です。図のイメージはこんな感じです。
加熱面以外、ということは単純に火が加えられた側の反対側から火が燃え広がらないということです。屋内と屋外(周囲)両方ともです。ただし、20分間までです。
延焼ラインの範囲内にある外壁の開口部には両面20分防火設備を計画する必要があります。製図試験では、以下の2点を押さえておけば問題ないです。
両面20分防火設備
・出入口扉:アルミ製防火戸
・窓サッシ:アルミ製サッシ付網入り板ガラス
・延焼ラインの例外①(隣地が公園や水面等)
隣地が防火上有効な公園や広場、水面である場合は、延焼ラインが不要となります。
延焼ラインは上記のように描きます。西側の公園からの延焼ラインは発生しません。
ただし、与えられた問題文(敷地図)で以下の条件を満たす必要があります。
・「防火上有効である」という表記があること。
防火上有効であるという記載がなければ、延焼ラインは必要になるので、注意してください。隣地が川や海など水面であれば、防火上有効な公園と同様に延焼ラインは不要となります。
・延焼ラインの例外②(道路の反対側が公園等)
延焼ラインの目的は、建築物に対する延焼を防ぐことです。道路の反対側が公園や水面である場合は延焼ラインの扱いは異なります。通常であれば、隣地境界線と道路境界線から1Fで3m、2F以上で5mの範囲が延焼のおそれがある部分として考えます。ところが、道路の向こう側が公園である場合には、製図試験では延焼ラインは無条件に不要となります。(防火上有効であるか否かにかかわらず) 建築物は存在しないですもんね。
実際に、平成30年の「スポーツ施設」の本試験問題で次のような敷地図が出題されました。
まず、道路中心線から延焼ラインが発生します。ところが、道路の反対側は公園です。防火上有効であるとも書いていません。延焼ラインはこういった隣地以外が公園等であるなどのイレギュラーケースについては条文に詳しく書かれていないのです。
試験元のH30標準解答例では、道路の反対側にある公園が防火上有効であるか否かに関わらず、道路側には延焼のおそれのある部分がないという判断を正解としています。
したがって、隣地が公園などの場合は防火上有効であるか考える必要があるけれど、道路をまたいで公園などがある場合は防火上有効であるかにかかわらず延焼ラインは不要というのが結論です。
・延焼のおそれのある部分とは隣地境界線又は道路中心線から1階3m以内、2階以上5m以内の範囲である。
・延焼ラインは簡便的に一本線(点線or一点鎖線)で各平面図に描く。
・延焼ラインとその外側の外壁の開口部には「○防」を描く。
・「○防」は遮炎性能を有し、両面20分間防火設備のことを指す。
・隣地が公園や広場、水面(川や海)でかつ防火上有効である場合は延焼ラインは不要。
・道路の反対側が公園である場合は、無条件に延焼ラインは不要。(製図試験のみ)
延焼のおそれのある部分(延焼ライン)の説明については以上となります。
最後まで読んで頂きありがとうございました。